「ガトーショコラが美味しいお店」としてテレビに取り上げられる人気店『ケンズカフェ東京』。
カフェのお客さんで賑わっているのかと思いきや、
お店の中に人影はありません。スイーツが並ぶショーケースも見当たらない。
どういう事でしょう?!
今回、取材に応じてくださったオーナーは、ガトーショコラの巨匠と呼ばれる氏家(うじいえ)さん。
「そんな秘密まで教えてくれていいんですか!?」とこちらが心配するくらい、
ケンズカフェ東京が成功した秘訣を教えてくれました。
これから菓子店を開きたい人や、すでに菓子店を経営している人に、
是非ともお伝えしたいお話です。
外観の印象 ~連想させるのはカフェレストラン~
東京の県庁所在地がある新宿。
その新宿駅から2駅ほど離れた場所に新宿御苑前駅があります。
新宿とは名ばかりで、人の気配が少ない閑静なオフィス街。
あたりはショッピングエリアでもなく、歩いていて偶然見つけられるお店じゃありません。
東京の銀座や渋谷に比べて、集客力の格段に劣るこの地でどのように成功したのか?
そんなことを考えていると、ますます好奇心が湧いてきます。
店内の印象 ~予約の商品が並び、まるで製造工場~
店内に入って納得。
カフェレストランの営業は2年ほど前にやめていました。
どおりで店内に人影がないはずです。
現在は、ガトーショコラの販売だけをおこなっています。
店頭のテーブルには、予約注文に合わせて作った商品がズラリと並びます。
その風景は製造工場さながら。
暖色系の温かい照明が、以前はカフェレストランだったことを物語っていました。
こだわり商品 ~ガトーショコラに絞ったことで知名度は抜群~
1本3,000円の特撰ガトーショコラは、年間10万本も売れる圧倒的な人気商品。
ケンズカフェ東京がお客様に提供するのはこの1種類です。
だからショーケースも必要ありません。
商品をガトーショコラだけに絞っているので、
お店の名前と特徴がとても記憶に残りやすいようです。
ネットの口コミを読んでみても、「ガトーショコラのお店」という代名詞が必ずついています。
Googleで「東京 ガトーショコラ」と検索すれば1番上に表示されるところを見ると、
商品を1つに絞る戦略は大成功だったようです。
味の特徴 ~世界最高峰のチョコレートから作られた大人の味~
箱がほんのり温かい、焼きたてのガトーショコラをテイクアウト。
家に帰って実食!
しっとり柔らかいガトーショコラは、フォークがすっと入ります。
1口サイズに切ると、中のチョコレートが照明に照らされ輝きを放ちます。
気になるお味は、ほんのりビターで濃厚な味。
芳醇なチョコレートの香りも楽しめます。
レンジで温めると、常温とは違ってとろける食感を楽しめます。
冷やしても美味しく、1本で3つの味を楽しめました!
店の歴史 ~転機は『食わず嫌い王決定戦』に取り上げられた2008年~
ホテルオークラのフレンチレストランで腕を振るっていた氏家さん。
1998年6月、ここ新宿に「ケンズカフェ東京」をオープンしました。
美味しい料理を振る舞い、常連客で賑わう人気店へと成長。
そんなある日、お客様から「ガトーショコラを持って帰りたい」と言われたそうです。
「できたてを食べてもらいたかったのでテイクアウトを断っていました。
でも、何度も言われるので渋々、テイクアウトを始めました。」
当初は、1日数個をデパートの紙袋に入れて販売。
ホームページで宣伝を始めましたが、
「こんなの売れるのかな?」と、半信半疑で続けていたそうです。
2008年、ケンズカフェ東京に転機が訪れます。
フジテレビが放送している、とんねるずの番組企画
『食わず嫌い王決定戦』に出演した歌手の藤井フミヤさんが、
ケンズカフェ東京のガトーショコラを紹介してくれたのです。
「通っていたネイルサロンの人にガトーショコラを差し上げたら、
そこから美味しいという評判が藤井フミヤさんに伝わったそうです。
あの番組に取り上げられたことで注文が増えました。」
氏家さんはこのタイミングで、
ガトーショコラの販売を本格的に始めることを決断されました。
店のコンセプト ~どこにも負けないガトーショコラを提供すること~
2008年ころにはカフェレストランを閉め、
ガトーショコラだけの販売に的を絞ったケンズカフェ東京。
「いろいろな商品を売ると、他のお店との差別化ができない」と考える氏家さん。
「商品を絞ったことで、『ガトーショコラと言えばケンズカフェ東京』
と言ってもらえるようになったことが成功の秘訣です。」と、教えてくれました。
その後、数々の賞を受賞した氏家さんですが、
そのジャンルを見ると「スイーツ部門」や「ケーキ部門」など大きなカテゴリーではなく、
「チョコレート部門」や「ガトーショコラ部門」など、
絞られたカテゴリーで評価されていることが分かります。
「もし商品を絞らなければ、ここまで知名度を上げることはなかった」と、
氏家さんは考えているそうです。
店づくりのこだわり ~売れるようになっても多店舗展開はしない~
1ヶ月先まで予約が埋まっている盛況ぶり。
毎日、何百本もガトーショコラを製造しています。
製造工場を増やせばもっと売れそうです。
「このお店で作れるキャパを超えたら予約を止めればいい。そう考えています。」
氏家さんは、店舗や工場を増やすことをあまり考えていない様子でした。
もともとはカフェレストランだったため、
キッチンはもちろん、カウンターもあれば、テーブル席もあります。
今はそのテーブルの上に、パッケージの箱や段ボールが置かれ、工場としての役割を果たします。
「ここで製造しているんですか!?」と買いに来たお客様も驚かれるそうです。
食材へのこだわり ~「ドモーリ」創始者によるオリジナルショコラを使用~
芸能人を虜にしたケンズカフェ東京のガトーショコラ。
その美味しさの秘訣を聞いてみました。
「美味しさの秘訣は、①材料の良さ、②秘伝の配合、③作りたて、以上3つです」
と氏家さん。
特に材料に対するこだわりは強く、
世界最高峰とも言われるチョコレート「ドモーリ」の創始者が
ケンズカフェ東京のために製造してくれる
オリジナルのグランクリュショコラ『KEN’S』を使っています。
小麦粉やアルコールを使わない本物の味に、
「いい材料を使ってますから美味しさに自信があります」とキッパリ。
「その日の予約はその日に作ります」と、鮮度の大切さを強調されました。
商品開発への思い ~ニーズがあるものを作り続ればいい~
ガトーショコラだけに商品を絞った氏家さん。
新しい商品開発をしないのか聞いてみました。
「お客様から『ガトーショコラが美味しい』『ガトーショコラをテイクアウトしたい』
と言われて今の形になりました。
他の商品を作って欲しいと言われたこともないので、新しい商品は考えません(笑)
お客様のニーズがあるものを作り続ければいいと思ってます。」
もちろん、ガトーショコラの味は成長しているのだとか。
「チョコレートに対する日本人の舌のレベルが年々上がっていると思います。
私もその成長に合わせて味を変えています。
昔に比べて味はビターにしてますし、胃にもたれない軽い仕上がりにしています。」
そして最後に、とっても大切なことを教えてくれました。
「身内は『美味しい』としか言ってくれません。
だから、ツイッターなどにある第三者の率直な評価を常にチェックしています。
そこからヒントを得て、味やサービスの方向性を考えています。」
第三者の評価を気にしない職人もいるかと思いますが、
エゴサーチに取り組む氏家さんの姿勢は、マーケティングそのものだと感じました。
商品パッケージ ~少しずつ進化するパッケージデザイン~
最初の頃はデパートの紙袋を使っていたそうですが、
商品が売れるようになってからはパッケージにもこだわるようになったそうです。
「最近もパッケージをリニューアルしました。
持ち手の紐を平らにすることで、持ちやすくしました。
色の濃さも時代に合わせています。」
持ち運びだけじゃありません。
海外からのお客様が増えたので、商品の案内カードの裏に英語の解説をのせてあります。
これらは氏家さんのアイデアです。
スタッフの採用方針 ~「こればかりはご縁だと思っています」~
働いているスタッフの中には、
菓子専門学校で学び、この世界に憧れてケンズカフェ東京に飛び込んだ人もいます。
氏家さんに採用方針を聞いてみると、あまり深くは考えていないことが分かりました。
「続く人は続くし、辞める人は辞めてしまいます。
こればかりはご縁だと思っています。」
もとより、知名度のあるケンズカフェ東京で働きたいと考える人は多く、
採用活動を考える必要もなさそうです。
組織づくり ~ガトーショコラを作れるのは2人だけ。徹底された役割分担~
お店でガトーショコラを作れるのは、氏家さんともう1人のスタッフだけ。
他のスタッフは、調理の準備や箱詰め、接客を行っています。
お洒落なパッケージに包まれたガトーショコラを、高級感ある袋に入れ、
スタッフが1人1人のお客様へ丁寧にお渡しする姿勢が印象的でした。
お客様の傾向 ~北海道や海外など、遠方からも来店~
2年前に通販をやめてから、それまで購入してくれていた北海道をはじめ、
遠方のお客様がわざわざ買いに来ます。
さらに最近は、新しい客層が増えました。
「海外からのお客様が増えました。
食べログの英語版を見て来られます。評価点数の価値は世界共通ですね。
日本で一番美味しいガトーショコラのお店だと知って、買いに来られるようです。」
購入するには予約が必要ですが、海外からのお客様は突然お店に来られます。
そんな時は、できるだけ販売してあげられるように工夫しているそうです。
「東京オリンピックに向けて、ますます海外のお客様が増えそうですね」と、氏家さん。
将来の展望も頭の中に描かれていました。
まとめ
ガトーショコラで有名な「ケンズカフェ東京」がなぜここまで人気なのか、
取材を通して2つのポイントが見えてきました。
オーナーの氏家さんは、もともとホテルオークラのフレンチ料理人。
その時に身につけたレストランクオリティーをスイーツの世界に持ち込まれたのだと感じます。
その証拠に、食材へのこだわりは強く、
ドモーリ製のオリジナルショコラを手に入れるまでになりました。
そして最後にもう1つ。
どうしてカフェレストランを閉め、2年前には通販もやめてしまったのか?
そして、どうして店舗を増やすことを考えないのか?
その答えは、「ここ新宿御苑に来なければ買うことができない」という希少性ではないでしょうか。
いつでも誰でも買える物は、その瞬間は人気が爆発しても、やがて飽きられる。
氏家さんは、周りから評価されればされるほど、身を引き締めていらっしゃるのだと感じました。
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